私が以前、担任をもっていたとき、学級経営の基盤にしていた思想があります。
それは、アドラー心理学です。
アドラー心理学といえば、日本では岸見一郎先生の『嫌われる勇気』が爆発的ヒットとなり認知度が高まりました。
アドラー心理学の考案者、アルフレッド・アドラーはオーストリアの精神科医です。
活動されていたのは100年前の事ですが、現代の日本の世相にマッチして、近年、教育現場やビジネスの世界にもアドラーの思想が取り入れられるようになってきました。
今回は、学級経営や子育てに役立つアドラー心理学の思想を、経験をもとに紹介していきたいと思います。
対等な関係
アドラーの思想を、子どもとの関わりにおいて大切にしてきました。
数あるアドラーの思想の中に、たとえ教師と子どもの関係であっても、”上下ではなく”、横の関係でいることが大切だとあります。
対等に、横に並ぶからこそ、お互い尊重し合い、心から通じ合えることができると考えるからです。
6年を担任していた時は、この関わりは、より強く意識していました。
その学級は、学力や生活面での能力は高いものの、指示されないと動けない子がたくさんいるなと感じていました。
また、ルールに従順で、狭い範囲(価値観)の中で小学生をやっているなという印象があったので、まずはそこを打破したいと考えていました。
対話の時間を多くとり、子どもからの提案を積極的に吸い上げるようにしました。
納得いくまで話し合う時間も大切にし、教師や指導に対する不満もあれば積極的に聴き、改善すべきところは改善していきました。
「一人の人間、大人として、あなたたちと関わっている」というメッセージは、常日頃から送り続けるように意識して関わっていました。
そのような関わりを続けていると、子どもからの反応も変わってきます。
子どもの意見ばかり聴いていたら、舐められるのではと思う方もいますが、全く逆です。
リスペクトの気持ちを持って相手に接すれば、相手も同じように返してくれます。
子どもは大人が思っている以上にいろいろな事を考え、感じ取っていますから、教師の誠実な関りにはそれ相応に返してくれます。
多様な考えを認める
子どものポテンシャルは凄まじいものです。
凝り固まった大人の発想では考えつかないことを、提案してくれることは結構あります。
中には、それはさすがに無理やろ・・・というような現実離れしたものもありますが、意見や提案を出した子どもの行動をまずは承認します。
そして、じゃあ、それをやれるために何が必要?から話を具体的に広げていきます。
6年生には、半年ほどこの関わりを続けていくと、クラスを離れたいろんな場面でも、積極的に発言する姿が見られるようになりました。
そのような関わり方は、時には他の教員から批判を受けることもありました。
”もっと教師が引っ張っていかないと”と。
ですが、教師の動かしやすい子どもを育成するのが学校の仕事ではないと、自分の信念は曲げずに子どもと関わり続けてきました。

口癖は、「おぉ、イイネ!」
ジャッジしないことが大切だと思います。
子どもの相談や主張に対して、こちらに答えがある前提で聞くと、評価・分析的に話を聞いてしまいます。
せっかく勇気を出して話したのに、否定的なメッセージで送り返されたら、もう二度とこの人には打ち明けるまいと思ってしまいます。
大人でもそんな経験はたくさんあるはずですが、聞く側になるとその感覚を忘れてしまいがちです。
良い悪いで判断するのではなく、まずは相手の話をまるごと受け入れる。
そして、こちらの価値観は一旦脇に置いといて、相手が「本当はどうしたいのか」、「何がほしいのか」に意識を向けて寄り添う関わりが大切ではないかと思います。
と言っている私も、心理カウンセリング、コーチングを学び始めた頃は、ここぞとばかりにスキルを使おうとして失敗していました。
気づけば詰問・尋問になっていました。
いじめられてる気がするんですと相談してきた、男子に対して、今思えばひどい対応をしていたなと申し訳なくなります。
大切なのは、技よりも、まずは真摯に受け止めて、寄り添う気持ちです。
卒業後、その子と話す機会があり、中学のことで相談を受けました。
今度は前の反省を生かし、ただただ寄り添い、受け止めて承認していただけですが、その子は堰を切ったように、ぼろぼろと涙を流しはじめました。
そして、じっくりひと通り話を聞いたあとは、次への行動を考えられるようになりました。
多様な考えをまずは受け入れることが大切だと思います。
自分原因
イライラする場面や許せない子どもの行動などは日常茶飯事に起こるわけですが、その時に、世界をどうとらえるか、心をどう持つかでその後の現実も変わってくるように思います。
相手に原因があるというスタンスを崩さない、固執している限りは、その現状は変わることはありません。拮抗した状態が続きます。
ですが、仮に100歩譲って自分に100%原因があると考えることができたら、自分の行動や関わりを少し変えただけでも、現実は少しずつ変化し始めます。
人を変えるのは至難の業です。催眠術を使って変えてやろうとするのではなく、自分が変わってしまうほうが解決は圧倒的に早いです。
これはアドラーの表現の仕方は違いますが、考え方は同じです。

人間は主観の世界でいきていて、自分が見たいように、思いたいように世界を見ているとアドラーは言います。
相手が悪いと決めつけているうちは解決しなかったことも、少し視点を変えて物事を見てみると、これまで許せなかったことがどうでもよく思えてきたりするものです。
自分の見ている世界は、自分が決めているという視点を持つと、生き方が大きく変わってきます。
けれども、ここで言う自分原因とは、全部悪い事は自分のせいなんだと、自分を責めるということではないので注意してくださいね。
信用ではなく信頼

○○信用銀行はありますが、○○信頼銀行はありません。
銀行は、お金をきちんと管理できるお客さんにのみ、信用をもってくれます。
アドラー的には、信用ではなく信頼するといいます。
これは、無条件で相手を信じるということです。
どんな状況であっても、相手の存在を認め、受け入れることが必要。
また、こちらの過剰な心配や配慮は、相手を信頼していない現れではないでしょうか。
子どもが自分の力で乗り越えられる力を信じるのならば、「ぐっと待つ」関わりも大切です。
また、心配しているといいながらも、実はその先には、子どもが失敗した先に、自分の身に降りかかるいろいろな事に心配している自分がいる、ということもよくあります。
自他の承認

学級では、自分自身を認めるということを大切にしていました。
日本の文化には、自分で自分を誉めるということをあまり良しとしない風潮があるように感じます。(自画自賛、自分に甘い、浮ついている)
ですが、自分の頑張りは、まずは自分が認めてあげようよと子どもたちには声かけしています。
他人の評価に一喜一憂するのではなく、自分が設定した目標に対して、頑張って取り組んだのなら、まずはそんな自分を認めてあげてほしいなと思っています。
そして、子どもの頑張りや努力に対しては、その行動にリスペクトを払うように心がけています。
褒める行為には副作用があるといいます。
ご褒美がなければ、動かない子を育てるリスクがありますし、褒められることがプレッシャーになっていってしまうケースもあります。
それらに気をつけながら、目標にむかって取り組んだ過程は事実ですから、その行動を承認することで、その子自身を認めることにつながります。
手放す勇気

いろいろな事を学ぶと、教師はついつい自分の学級やわが子で試したくなります。
私はそれで今までたくさん痛い目にあってきました。
そして、コーチングスキルにおいても同じことが言えると思います。
いろいろな考えを自分の中に落とし込もうとしても、人はそんなにすぐに変われないですし、変わる必要もないかと思います。
上記の考えを常に実践できているわけではないです。
こうなれたらいいな、こう近づきたいなという思いは常にありますが、人間、誰しも波があります。
調子のいい日もあれば、なんだかうまく関われない時もあります。
また、コーチング的関わりを意識しても、なんだか上滑りで空回り。
こんな自分はだめなんじゃないか・・・。そんな風に感じる時もあるかと思います。

そんな時は、自分を責めるのではなく、これらの考えを手放す勇気を持つことも大切だと僕は思います。
感情的にならずに関われることがベストだと思いながらも、時には大きな声で怒鳴りつけることもあります。
その時に、自己嫌悪に陥って動けなくなってしまっては、本末転倒です。
私は、そんな自分も含めて自分なんだと思えるようになって、すごく気が楽になりました。
なので、いろいろな考えに触れて手に入れたら、時には手放す潔さも必要かと思います。
まとめ

アドラー心理学の考えは、これまで日本の常識では良しとされてきたことを覆すような思想が多く出てきます。
けれども、浮世離れしているわけではなく、心のどこかでは、こんな考え方を求めていたのかもしれないと思わせてくれることばかりです。
今回の内容が、アドラー心理学にふれるきっかけになり、お子さんとの良好な関係づくりに役立つことができれば幸いです。